『TECHNOPOLIS 2000-00』について



 昨年リリースされ、大好評だった『TECHNOPOLIS 2000-01』(VICL-60483)をはじめ、
YMOのリミックス作品はこれまでに多数存在している。

 今回、『TECHNOPOLIS 2000-00』の企画がスタートしたとき、まず考えたのは、当然これ
までにないYMOのリミックス・アルバムを作りたいということだった。そのため、リミキサー
の人選も名前にとらわれることなく、たとえ新人であろうともインディーズのアーティストであ
ろうとも、いま本当におもしろい音楽をクリエイトしているアーティストだけを挙げていくこと
になった。そんな人選の際に挙がった名前の中には、これまで一度もリミックス作業を経験した
ことのないアーティスト(残念なことに今回は実現しなかったが…)もいたし、日本では作品を
リリースしていない(邦人)アーティスト、名前が挙がった時点ではデビューしてまだ数カ月の
アーティストもいた。それら、リミックス、ダンス・ミュージックの世界では認知度の低いアー
ティストであっても、逆に日本はおろか世界でも名の知られたアーティストであっても、本当に
おもしろい音楽を作っているアーティストにリミックスを依頼する。今回の『TECHNOPOLIS 2000-
00』のスタート地点は、まずそこだった。

 さらに、そうして決まっていたリミキサー陣には、こちらのほうからどの曲をリミックスして
ほしいかのリクエストをするという方法を、今回は取った。
「この曲をあのアーティストがリミックスしたら、どんなトラックになるのだろう」
こんな、実に単純な期待がそもそもの出発点となったのだ。

 リミックスは化学反応だと思う。ある物質とある物質が触れ合ったときに生じる不思議な変化。
99%の期待と1%の不安を持って、私たちはリミキサーに依頼を進めていった。幸福なことに、ほ
んのわずかな例外(注1)を除いて、どのアーティストもこちらのリクエストを快諾してくれた。
驚きだったのは、「ライディーン」や「テクノポリス」であればともかく、一般的にはマイナーだと
認知されている曲であっても、ただの一度もリミキサーから「そんな曲は知らない、やりたくない」
という返答が返ってこなかったことだ(注2)。いや、そもそも驚くべきなのはスケジュールの問題
でどうしても実現しなかった極少数の例外を除いて、ほぼふたつ返事に近い形で今回のリミックスを
どのアーティストからも承諾してもらえたことなのかもしれない。私たちは、ここでもYMOという
稀有のモンスター・バンドの存在の大きさ、影響力の巨大さを実感した。

 各リミキサーへの依頼は今年の6〜7月にかけて行われたが、その後の進行状況がきれいに二分化
されたこともおもしろかった。
 まず、半数のリミキサーは、こちらの予想もしなかったスピードでトラックを完成させてきた。
しかも仕上がりの早かったリミキサーのほとんどは、依頼の際、所属事務所などから「スケジュール
がタイトで締め切りぎりぎりになんとか間に合うかどうか」と伝えられていたアーティストに多かっ
たから、驚きはなおさらだった。たとえば事務所からは「9月の半ばまでにはなんとか」と言われて
いた某リミキサーは9月の半ばどころか、8月の半ばにはもうトラックを仕上げていた。YMOのオ
リジナルのマルチを前にして、いてもたってもいられず休日を返上してスタジオに篭もったらしい。

 逆に、「すぐにできます」的な返事をもらっていたリミキサーほど、締め切り間際になんとかトラッ
クが間に合ったというケースが多い。こちらはどうやら、作業を終わらせたくなかったような節がある。
たとえば某リミキサーは一度完成させたトラックをボツにしてもう一度、いちからやり直し、そうして
再度完成させたトラックをさらにご破算にして、三度に渡るリミックス作業を行ったとのことだ。おそ
らく締め切りがなければ、いまだ作業が続いていたのではないだろうか。

 このようにして、迸るような情熱を持って仕上げられてきた各トラックは、まさにYMOとその楽曲
に対する愛があふれるリミックス作品となった。どれも、こちらの期待を遥かに上回るクオリティのも
のばかりだ。そして特筆すべきなのは、どのリミックスも、オリジナルに対する愛にあふれているのと
同時に、リミキサーそれぞれの個性、持ち味が十二分に発揮されているということだ。

 リミックスは化学反応であると同時に、批評行為でもある。オリジナルに対する愛があるに超したこ
とはないが、その愛が盲信であってはおもしろいものはできない。愛を持つと同時に、ひとりのアーティ
スト、クリエイターとして第三者の目でオリジナルを検分していかなければならない。オリジナルのど
の要素を省き、どの要素を残し、それをどのように扱うか。素材を取捨選択したうえで、さらにそれを自
分なりに消化し、自らの音楽に融合・昇華していく。コピーでもカヴァーでもない、リミックスという行
為によってのみ可能な音楽のマジックだ。

 この『TECHNOPOLIS 2000-00』に収録されたリミックス作品は、どれもそんな音楽のマジックに満ち
ている。YMOという巨大な存在に、愛とリスペクトを抱きながらもそれぞれアーティストとしての矜持と
自負を掲げつつ正面から挑んだリミキサーたち。本作『TECHNOPOLIS 2000-00』はそんなリミキサーた
ちの勇気ある冒険の一枚でもある。

『TECHNOPOLIS 2000-00』コーディネイター・吉村栄一


(注1)電気グルーヴのみは、こちらが依頼する前からYMOのリミックスに対する確固としたヴィ
ジョンを持っており、「テクノポリス」「アブソリュート・エゴ・ダンス」(アナログLPにボーナス・
トラックとして収録)の2曲となった。

(注2)一部オリジナルのマルチが現存していない曲があり、結果として第二候補曲のリミックスと
なったケースが一例ある。

各曲紹介

1. オープニング・フロム・ザ・パスト OPENING FROM THE PAST  松武秀樹

20世紀の最後を飾るYMOリミックス・アルバムには、それにふさわしいファンファーレが欲しい。
そんな思いで、第4のYMOと呼ばれたプログラマーの松武秀樹氏にアルバムのオープニング曲とクロー
ジング曲を依頼。このオープニング曲は「地の底から“なにか”が湧き出てくるようなイメージのものを」
とお願いした。まさにそのイメージ通りの、これから始まる素晴らしいことを予感させる曲となった。

 

2. テクノポリス TECHNOPOLIS(Denki's Techtropolis-RMX)  Remixed by 電気グルーヴ

(注1)でも触れたよう、依頼時にはすでに曲想ができていたのが電気グルーヴ。ここ数年来温めていた
曲想の、ついにの実現によって完成されたトラックであるため、完璧なクオリティの作品となった。原曲
のエッセンスを巧みに抽出しながらも、電気グルーヴならではの独創性に富んだ、リスニングにも、クラ
ブ・ユースにも向いた1曲。今年の9月に行われたテクノ・イベント『WIRE 00』での石野卓球のDJ時
に初プレイされてもいる。

 

3. 中国女 LA FEMME CHINOISE(Groove That Soul Mix) Remixed by SATOSHI HIDAKA(GTS)

本来、オリエンタルで情緒的な「中国女」を徹底的にハードなハウス・トラックに変化させたのがGTS
のSATOSHI HIDAKA。しかし、ハードでダンサンブルではあっても、オリジナルのヴォーカル・トラックや
細かなシンセSEを絶妙の匙加減で残すことによって、原曲の魅力のひとつであるポップさはいささかも
損なわれてはいない。

 

4. 東風 TONG POO(DJ CELORY REMIX) Remixed by DJセロリ(ソウル・スクリーム)

ソウル・スクリームのトラック・メイカーとして活躍中のDJセロリは、YMOの代表曲の1つでもある
「東風」をリミックス。他のリミキサーとは対照的に、本作はオリジナルのメロディー、アレンジはほぼ
そのままに、その分、グルーヴ感あふれる新たなリズム、2ステップと原曲との完璧な融合にチャレンジ。
オリジナルのマルチとして、『イエロー・マジック・オーケストラ(米国ミックス版)』とライヴ盤であ
る『パブリック・プレッシャー』の2種を使用するという凝りようだ。

 

5. インソムニア INSOMNIA(DRY & HEAVY REMIX) Remixed by ドライ&ヘヴィ

近ごろでは“国内最強のダブ・バンド”との呼び声も高いドライ&ヘヴィに依頼したのは「インソムニア」。
期待にたがわず正統的でパワフル、かつ強力なダブ・トラックに仕上げてくれた。今回のアルバムの中では
異色な、オリジナルの音源以外はほぼ生演奏というスタイルだが、予想したとおり違和感はなく、彼らの実
力が遺憾なく発揮された、アルバムの中盤を引き締める格好のトラックとなった。

 

6. 磁性紀〜開け心 JISEIKI - HIRAKE KOKORO(Good-Bye Bus Mix) Remixed by ハヤシヒロユキ(ポリシックス)

恐るべき22歳、ハヤシヒロユキはリミックス依頼した、(現在は)YMO名義のアルバムには収録されてい
ないこのレア曲を当然のように熟知していた。シーケンサーとドラムと故大村憲司氏によるギターのみという
オリジナルをさらにパワー・アップし、炸裂するテクノなオルタネイティヴ/パンク・トラックに昇華。いわ
ゆるYMOチルドレンの第二世代のエネルギッシュさ、弾けぶりを象徴する1曲となった。

 

7. ライディーン RYDEEN(YAMADA MAN Remix) Remixed by 山田マン(ラッパ我リヤ)

まちがいなく、本作における最大の問題作(そして話題作)。依頼をしたときにすでに秘かな予感と期待をし
ていたのだが、それを上回る衝撃的なトラックにしてくれた。このトラックに関しては、本当に百見は一聞に
しかず。とにかく聴いて、その衝撃を確かめてほしい。

 

8. コズミック・サーフィン COSMIC SURFIN' (Merry-Go-Round Mix) Remixed by EYE(ボアダムス)

21世紀のトロピカル・ミュージック。そんな印象さえ浮かぶのがこのEYEによる「コズミック・サーフィン」
だろう。トライバルという表現を遥かに超えた、アジア各地の民族音楽のミクスチャーと微かに見え隠れする南
国の香り。猥雑で混沌としていながらも、どこかやすらげる、不思議で愛すべきトラックとなった。

 

9. ビハインド・ザ・マスクBEHIND THE MASK (Farewell, Mr. S3000 Remix ) Remixed by TAKU (m-flo)

いままさに絶頂期に入ろうかというm-flo。そのトラック・メイカー、TAKUが手がけるのが「ビハインド・
ザ・マスク」だ。ゲスト・ヴォーカリストにFLY-Tを迎えての本作は、2ステップにFLY-Tのラガマフィン・
ラップを乗せてという、非常に凝った、そしてポジティヴで陽気な出来となっている。グルーヴィーなリズム
にFLY-Tのラップ、それに原曲のミニマル・メロディ、教授のヴォーコーダーが有機的に絡み合っていく様は、
聴いていて本当に気持ちがいい。

 

10. 手掛かり KEY(Forest 808 MIX) Remixed by エナメル

エナメルは、ベルギーのサブ・ローザ・レーベルから作品をリリースしているバンド、タイム・コントロール
に所属する稲見淳を中心としたユニット。この「手掛かり」はヴィンテージ・リズム・マシン、ローランド808
をフィーチュアしたストレートなアンビエント・テクノとなった。原曲のハードでインダストリアルな感触を
徹底的に排除し、曲の様相をがらりと変えて見せてくれる。

 

11. 以心電信 YOU'VE GOT TO HELP YOURSELF(POP'LasT-c'mix) Remixed by POP

POPは今年メジャー・デビューしたばかりの新人だが、その類まれなポップ・センスで評価急上昇中のアー
ティスト。自らのアルバムでは、ポップな歌モノからフロア向けのテクノ、ダブ、インダストリアル風味の作
品まで披露するなど守備範囲が広い。そんな彼に依頼した「以心電信」は、原曲のポップさをそのまま残しつ
つも、やはり多彩で手のこんだバック・トラックが施され、アルバムの最後を飾るのにふさわしい、アッパー
で明るいトラックとなった。

 

12. クロージング・フォー・ザ・フューチャー CLOSING FOR THE FUTURE 松武秀樹

そしてアルバムの幕引きは、松武氏によるクロージング・テーマ。通称タンスと呼ばれる巨大なモーグ・シン
セサイザーによるSEと、YMOファンならば絶対に聴き覚えがある様々な音色、フレーズが顔を出す、余韻
の残る1曲となった。

 

CD未収録ヴァージョン(アナログLPボーナス・トラック)

<C面に収録>

手掛かり KEY(Hard Coincidental Mix)  Remixed by ENML

「手掛かり」のLP収録ヴァージョン。CD収録のヴァージョンとは逆に、こちらは原曲のハードなイメージ
を徹底して追及したアシッドなフロア向きのテクノとなっている。

<D面に収録>

アブソリュート・エゴ・ダンス ABSOLUTE EGO DANCE(Denki's Eisa-RMX) Remixed by 電気グルーヴ

電気グルーヴの手がけたもう1曲は「アブソリュート・エゴ・ダンス」。原曲でのサンディーのバック・ヴォ
ーカルを大フィーチュアした、明るくて威勢のよいテクノ・トラックになった。

 

ライディーン RYDEEN (INSTRUMENTAL) Remixed by 山田マン(ラッパ我リヤ)

このトラックの持つ、トラック自体のクオリティの高さを再認識させてくれるインストゥルメンタル・ヴァー
ジョンでの収録。これだけでも充分に独立して楽しめるだけのソリッドなヴァージョンだ。

 

 

以心電信 YOU'VE GOT TO HELP YOURSELF(POP'banana.trap'mix) Remixed by POP

アッパーで大がかりなCD収録のヴァージョンと比べて、ちょっとメランコリックで、ストレートな歌モノの
テクノとなっているヴァージョン。やはりPOPならではのポップ・センスがよく出たトラックとなっている。

 

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